
ディープインパクトとハーツクライ
ライバル対決は孫の代まで続く
日本競馬の最高傑作ともいえるディープインパクト。
無敗でクラシック三冠を達成。
そして、その最強最高傑作のディープインパクトに日本で唯一土をつけたのがハーツクライ。
そしてこの戦いは種牡馬になってからも続くのだった…
それは突然訪れた
断然1番人気の有馬記念でまさかの敗戦
2005年クリスマス。
その日は突然訪れたのだった。
サンデーサイレンス産駒の最高傑作と言われたディープインパクト。
ここまで無敗で皐月賞・日本ダービー・菊花賞とクラシック三冠を難なく達成。
鞍上の武豊騎手はディープインパクトに対して鞭をほとんど入れない。
入れなくても走るのだ。
そんなディープインパクトを稀代の名騎手・武豊氏に【この馬は飛んでいるようだ】と言わしめる始末。
この無敗記録はどこまで続くのか。無敗のまま海外に挑戦するのだろうかと期待が膨らむ一方だった。
3歳冬、2005年ラストのG1有馬記念。
同じく無敗でクラシック三冠を制覇したシンボリルドルフは、菊花賞の後ジャパンカップを選んであえなく3着、敗戦。
しかも勝った馬は日本馬カツラギエースだった。
それがあったわけでもないだろうが、ディープインパクトは3歳ラストは有馬記念を選んだ。ジャパンカップは来年でも出れるといわんばかりの選択だ。
しかし、菊花賞から日が開くため、万全の状態で挑めると外野は考えることになる。
有馬記念の出馬表。
昨年の天皇賞秋・ジャパンカップ・有馬記念とかち秋古馬三冠となり、年度代表馬のゼンノロブロイ。今年は勝ててはいないが、G1で2~3着には滑り込んでいる状態だ。
2003年のジャパンカップを逃げ切ったタップダンスシチー。
2004年の宝塚記念を勝って以降は精彩を欠いている。
今年の天皇賞春の勝馬スズカマンボ。天皇賞を勝って以来、掲示板にも乗れていない。
有力馬が精彩を欠いている状態であり、かたやディープインパクトはおそらく秋は有馬記念までを最初から考えて神戸新聞杯、菊花賞と挑んできて、予定通りの有馬記念出走というところだったであろう。
そのうえ、菊花賞はまさかの単勝オッズ1.0倍。
改めてレースを見てみても、おそらく力は50%程度で走り切ったように見える。
有馬記念へ向けて余力十分。視覚なしにしか見えなかった。
馬券ファンもほとんどの人がそう思っていたのではないか。
1年のレースの中で最も売り上げが多いのが有馬記念といわれていてこの年の有馬記念の馬券売り上げは約500億円。
それだけの中で単勝オッズ1.3倍は異常な数字だ。
誰しもが、どれだけ引き離して勝つのかということにのみ興味を示していた。
いざレースが始まってみると、ひいきで見てしまうのもあると思うが終始ディープインパクトのペースに見える。
直線向いて手応え抜群。いつもの通り外から一気にごぼう抜きか?という体勢に入った。
しかしだ。前目をついていたハーツクライが粘る粘る。
追いつくディープ。しかし詰まっていかない。最後の最後ぐっと詰めてきたが半馬身差を残してゴール。
菊花賞から500m短くなった有馬記念だ。菊花賞のような乗り方をしてしまったようにも見えたし、もう馬体1つほど外に出していればきれいな馬場を走れた気もする。
何にしても、ディープインパクトは負けてしまったのだ。
そして、その先も日本では負けなかったディープインパクトに唯一土をつけた日本馬がハーツクライとなったのだ。
そして2頭は引退・・・
種牡馬時代のライバル関係
ハーツクライはその後06年春にドバイシーマクラシックを制覇。
そのままイギリスに向かいキングジョージ6世に出走。ここでの成績いかんでは(多分2着以内であったなら)凱旋門賞へと駒を進めフランスの地でディープインパクトと再度対決という青写真もあったのではないかと思うが、キングジョージで3着。
その後帰国し、ジャパンカップでディープインパクトと再対決。しかしながら10着と大敗し引退。種牡馬入りとなった。
かたやディープインパクトは春は国内に専念。
当時の黄金ルートは阪神大賞典から天皇賞春、そして宝塚記念というのが横綱相撲の黄金ルートだ。
この3つのレースをすべて単勝1.1倍で、そして3馬身以上ちぎって国内敵なしの圧勝でフランス凱旋門へとターゲットを絞りフランスへ向かう。
さすがの三冠馬。海外でも人気を集め、いよいよ日本馬が凱旋門賞を勝つ時が来たとまで言われたがレースとしての着順はまさかの3着。世界の壁はまだまだ高かったと思い知らされた。また、その後フランスで禁止されている薬物が検出されたということで失格処分となった。まさにディープインパクトの競走成績では一番の失点となったのだ。
帰国後はジャパンカップ、有馬記念と圧倒的な強さを見せつけて有馬記念優勝とともに引退。ターフを去ることとなった。
ここから、2頭の種牡馬としても対決が始まるのだ。
ここからは私の当時の主観も交えていく。
当時ディープインパクトの種牡馬としての私の見立ては、母の父のAlzaoが母の父としてはいいだろうと考えていた。
競走成績はクラシック三冠に天皇賞春、ジャパンカップ、有馬記念ということで、2000m以上のG1を6勝。過去の三冠馬、シンボリルドルフやナリタブライアンの種牡馬としての産駒はやはり少し距離の長い馬が多く、トウカイテイオーは例外として考えると、さほど強い馬を輩出していない。ミスターシービーは、先述の2頭より距離の適正幅としては参るから中距離寄りだったが、G1馬は輩出していない。
どうしても、2000・2400・3000mの3つのレースを勝ってしまうような馬は距離の適正幅が長めに出ることで、逆に大物が出にくいと考えていた。
ましてや、稀代の名種牡馬サンデーサイレンスが父なわけで、逆に母の父がサンデーサイレンスの馬は付けられない。
当時でいえばダンスパートナーや、トゥザビクトリー、アドマイヤグルーヴをつけるというわけにはいかないのだ。
ただし、サンデーサイレンスという種牡馬はノーザンテーストやリアルシャダイ、トニービン、ブライアンズタイムとは2枚も3枚も違い、大根幹種牡馬になる、いや当時はもう根幹種牡馬といってもいいほどであったわけなので、その仔で最高傑作なのなら、ノーザンダンサーの直仔であった、サドラーズウェルズやヌレイエフのような大根幹種牡馬の下の根幹種牡馬になる可能性だって大いにあるだろうとも思っていた。
なので、初年度産駒がデビューしてクラシック戦線に乗るころの評価としては、G1馬は何頭か出すだろうけども、リーディング1位になる程かどうか、なることもあるかもしれないがサンデーサイレンスを超えるような活躍をすることはないだろうと思っていた。
ハーツクライの種牡馬としての評価はディープインパクトのそれよりももっと低かった。
理由は母の父がトニービンであること。
トニービン自身は凱旋門賞を勝ったクラシックディスタンスの距離適性を持つ馬だったがその父であるカンパラはマイル種牡馬だ。
当時はマイル種牡馬がたまに大物を出すとベガやエアグルーヴ、ウィニングチケットのようなダービーやオークスを勝つような馬を出す種牡馬だと思っていた。実際は条件馬でも2000m前後を得意とする馬が多かったため、トニービンは結果的にはステイヤーとまではいわないまでもクラシックディスタンスホースだったのだろう。
しかし当時はまだ短い距離を得意とする馬が母の父だと思っていたのでディープインパクトより血統的な背景から得意距離は悪い意味での万能ではないかと思っていた。
また、サンデーサイレンス産駒は当馬自身が米国のダートで活躍した馬だったのでダート馬もたくさん輩出していた。
イシノサンデーは、皐月賞馬であってなおかつダービーGP勝馬でもあった。
母の父がバリバリの芝馬であるトニービンであるハーツクライは、ダートはだめではないかと思っていた。なので、勝鞍を稼ぎにくいと考えていた。
(結果これが大外れ。ディープインパクトはほとんどが芝馬でハーツクライはダートも走れる仔をたくさん出した。)
サンデーサイレンス産駒はこのころにはすでにたくさんのサンデー産駒が種牡馬入りしていて、サンデーサイレンス自身のリーディングを脅かす存在がそのころでもすでにダンスインザダークであったりフジキセキであったりしていたのだ。
サンデーサイレンス系種牡馬があふれてきているときにいい母馬をG1を1勝しかしていないハーツクライに回すか?と問われたら、ちょっと微妙なラインだろうと思っていた。
ディープインパクトは初年度から非常に高額な種付け料だが、ハーツクライはお手頃であり、そのお手頃価格なら、ほかのサンデー系種牡馬でもいいだろう。
ちなみにデビュー年2007年のハーツクライ種付け料は500万。
デルタブルースという菊花賞馬を輩出していたダンスインザダークの2007年の種付け料も500万。
どう出るかわからないハーツクライと、G1馬を輩出したダンスインザダーク。土地れも付けられるとなったらどちらをつける人が多いか自明の理かもしれない。
と、当時は考えていたのだ。
そんなハーツクライ。
初年度はウィンバリアシオンというシルバーコレクターを輩出。
続けざまにジャスタウェイを輩出し天皇賞秋をかってG1馬を輩出。
その後スワーヴリチャード、ヌーヴォレコルト、シュヴァルグラン、そしてドゥデュースとほとんど毎年G1馬、しかも当時最強の呼び声が高い馬を多数輩出した。
戻ってディープインパクト。
ディープインパクトは初年度に3歳馬にして安田記念を勝つという偉業を達成したリアルインパクトを輩出。
続けざまに牝馬三冠を達成したジェンティルドンナ、サトノダイヤモンドなど、G1馬多数。そして、最後の大物、稀代の名馬となった無敗の三冠馬コントレイルを輩出。
コントレイルが無敗でクラシック三冠を達成したことで親子2代三冠馬、なおかつ親子2代無敗の三冠馬という、前人未到の記録を2つも達成してしまう。
もうこの記録を抜くにはコントレイル産駒から無敗の三冠馬を輩出するしかないだろう。
ディープインパクト産駒は2025年秋の時点で重賞を298勝している。あと2勝で300勝の大台だ。
もう産駒も少ないので残っている産駒で何とか達成してもらいたいものだ。
ハーツクライとディープインパクト種牡馬になってからもライバル関係が続いているわけだ。
どちらも現役時に似た構図であって、ディープインパクトは現役時の通りで完璧という言葉がぴったりの種牡馬成績で、いよいよパーフェクトな産駒コントレイルまで輩出してしまった。
ハーツクライ産駒においては構図的にどうしてもそうなるのだが本命のディープインパクト産駒に対してヒットマンのごとく勝利をさらっていくような構図が多く、両頭の現役時代に似た様相だ。
キズナ・スワーヴリチャード・・・
孫の代まで続くライバル関係
もちろん現在の種牡馬事情は、サンデー系種牡馬特にディープインパクト系種牡馬とキングカメハメハ系の種牡馬の対立構図が激しいのだ。
キンカメ系はバラエティに富んでいるが、特にロードカナロア、そしてもう幼駒は出てこないとはいえドゥラメンテというとんでもない種牡馬がいた。
今回はその話ではなく、ハーツクライとディープインパクトだ。
ディープインパクトも今は亡くなってしまい産駒はもう出てこない。
そんな中で2024年のリーディングサイアーに輝いたのはディープインパクト産駒であるキズナだ。
ジャスティンミラノが皐月賞を勝ってG1馬も輩出した。
ハーツクライ産駒で今頑張っているのがスワーヴリチャードだ。
レガレイアがホープフルSに有馬記念と勝ち、アーバンシックが菊花賞を勝った。
まだ成績が3年分しかないが、2歳G1とクラシック、そして古馬G1の最高峰の1つである有馬記念を勝っていることでただの早熟ではない、また、2000m以上を得意とするところはハーツクライそっくりだ。
そして、これらはまだ前哨戦といえよう。
まずはコントレイル。無敗の三冠馬の仔で無敗の三冠馬。
これは良血牝馬も集まるし、結果ディープインパクト以上の期待を寄せられているだろう。
ドウデュース。ハーツクライ産駒の最高傑作と言えよう。
2歳G1の朝日フューチュリティを勝ち、5歳秋のジャパンカップを勝つまで毎年G1を勝っていることからも、早いうちから活躍できて、その後古馬になっても成長を続けることがわかる馬だ。
どちらも当時のディープインパクト、ハーツクライ以上の評価を受けていると思ってもいいと考えている。
ディープインパクトやハーツクライが種牡馬になった時はライバルは同じ父サンデーサイレンスのほかの産駒がライバルでもあったが今は少し違う。
キングカメハメハ産駒のロードカナロアであったり、シンボリクリスエス産駒のエピファネイアであったり、グラスワンダーからつながるモーリスであったり。
そして、同じサンデーサイレンス系統でも亜流ともいえる、しかし、ディープインパクトとは密接にかかわってくるキタサンブラックとその仔イクイノックスだ。
キタサンブラックの父はブラックタイドでその父はサンデーサイレンスだ。
そのブラックタイドとは、ディープインパクトの兄であり、全兄なのだ。
その仔イクイノックスはいわばコントレイルから見れば従兄に当たる。
これらがディープやハーツクライの孫世代のライバルたちだ。
さて、埋もれず次の世代につなげられるか。楽しみである。