種牡馬スワーヴリチャードの血統を考えてみる

社台SSの2026年種付け料が発表された。

キタサンブラック、そしてその仔であるイクイノックスが前年(2000万円)を500万円上回る2500万円となった。
無敗の三冠馬にしてディープインパクト産駒最高傑作との呼び声の高いコントレイルは前年同様1800万円、2024年リーディングサイアーのキズナ(父・ディープインパクト)も前年同様2000万円。
勢いのあるアドマイヤマーズは値上がりするかと思われたが昨年同様500万円、ロードカナロアは200万円アップの1200万円となった。

種付け料から見ると、アドマイヤマーズ産駒はまだお買い得な産駒が現れそうで、ロードカナロアについては、アーモンドアイやサートゥルナーリアが現役の時より値が張らなさそうだ。
キタサンブラック・イクイノックス産駒についてはもう億の声が聞こえるような産駒しか見えなくなってきている感じがする。
牡馬で5000万円台なら、相当安価な部類になりそうだ。
今回注目しているのはスワーヴリチャードだ。
アーバンシック・レガレイアと、牡牝両方でG1馬を出している。
レガレイアについては牝馬ながらにしてそのアーバンシックやシャフリヤール、べラジオオペラを抑え込んで有馬記念を勝っている。

血統云々の前に現在スワーヴリチャード産駒でいわれていることとして、自身の競走成績(古馬になってからG1を勝利)から、また父ハーツクライというところからもどちらかというと長距離タイプ晩成型で短い距離のレース(マイル以下)が多い2歳戦ではあまり活躍できないと当初は言われていたがそれに反して2歳戦でかなり好調だ。
6月の新馬戦芝1000mなんかでも1番人気1着とあっさり勝ちあがる馬が出てきたりする。
2歳戦、特に新馬・未勝利戦で勝ち上がることが多いため当然その後につながる馬も多い。
むしろ、最初のうちはあまり人気がある種牡馬ではなかったわけだが、それは先述の通り、父ハーツクライで、比較的長い距離に適性があり、自身の競走成績から早熟というより晩成タイプの血統構成とみられていて当初は人気があまり出なかったといえる。
同世代にダービー馬で天皇賞秋を勝ったレイデオロがおり、レイデオロはキングカメハメハ産駒で種牡馬としての期待はレイデオロのほうが大きかったと思われる。
そのため、有力な繁殖牝馬はほかの種牡馬に持っていかれる状態といえる。
レイデオロ以外にもスワーヴリチャードが繁殖入りした時点では、ロードカナロア、キズナ、エピファネイアというすでに実績がある大物種牡馬がいて、モーリスが重賞級を生み出し始め、オルフェーヴルが再度見直され始めたころ。そして当時はまだそこまで期待されていなかったのかもしれないがキタサンブラックが種牡馬入りしている。
そんな中でスワーヴリチャードにいい牝馬が回ってくることも少ないだろう。
レガレイア・アーバンシックの2頭の母馬は実は全姉妹でレガレイアの母ロカ、アーバンシックの母エッジースタイル、両頭ともランズエッジの仔で父がハービンジャーだ。
そして、この母親の系統は、2021年産駒のステンレスボッシュを除くとレガレイアとアーバンシックくらいしか重賞馬を出していない。
3頭とも2021年度産駒なので2頭の種付けをしている時点では重賞馬を輩出していない母系なのだ。
それほど人気があったわけではないということだ。

実際、2020年に種牡馬入りして、2023年まで種付け料200万円である。
社台SSで200万円というのはかなり破格の種付け料で、裏を返せばそこまで期待されていたわけではないということだ。
それが2023年に突如として1500万円となり、一気にトップクラスの種付け料となった。
これは、先述の2頭アーバンシックとレガレイアを輩出したことによるものとされているが、この2頭だけではなく、2歳戦での活躍や、そのほかの重賞馬も輩出していること、その時点での集まっていた母馬の質などから、いわば、【もしかしてスワーヴリチャードっていう種牡馬、とんでもないんじゃ???】となったのであろう。
レガレイアについては、牝馬にして、2歳(ホープフルS)、3歳(有馬記念)、4歳(11月時点でエリザベス女王杯)と3年にわたってG1を勝っているのだ。
ただの早熟でもなく、牝馬ながらにして3歳の有馬記念を勝っていることであったり、4歳秋のエリザベス女王杯を勝っていることを考えても2歳時点で高い能力を持ちそのまま成長して古馬になっていることがうかがえる。
アーバンシックはレガレイアほどではないにしても、2歳の8月に新馬勝ち、11月に1勝Cを勝ち上がり、3歳秋の菊花賞を勝っている。
そして古馬になって今年だが、勝ててはいないものの、天皇賞秋で掲示板に乗るくらいの活躍はしていて、もしかしたら距離的な面からもJCや有馬のほうが向いている可能性はあって、この先G1を勝つかもしれないくらいの勢いはある。
2頭とものポイントは、2歳の7月や8月に新馬戦であっさり勝ちあがったうえで、3歳の秋にG1を勝っているところだ。
早熟・はや枯れとはまた違うわけだが、そのくせ2歳時点で勝ち上がってしまっている。

一口馬主の経済的な面での重要なポイントの一つは勝ち上がることができるかどうか。
要はJRAで1勝できるかどうかというのは重要なポイントだ。
1勝できれば、とりあえずは1勝Cで出走することが可能であること。
3000万円台くらいまでの募集馬であれば1勝できるかどうかで採算面の計算が全く違ってくるのだ。
1勝するために必要なことはもちろん能力ではある。しかし、それだけではなく、いかにたくさん使えるかというのも必要で、2~3歳の夏までに1戦~3戦くらいしか使えない馬より、10戦~15戦も使える馬のほうが勝ち上がる可能性はぐっと高くなる。
通常ならこういう思考も働くので、丈夫そうな馬、、、であったり、芝よりダート・・・という思考に向かうことも多いのだ。
どんな事情があるのかわからないが、2歳戦から活躍できて成長力があって3歳~古馬になっても活躍できる種牡馬となると、一口馬主出資馬としてはやはり理想だ。
ましてや、すでに重賞を勝った馬を5頭も輩出しているトップサイアーとなるとどうしても欲しくなる。
ただ、1500万(2026年は1200万)の種付け料の産駒となると募集価格もそれなりになるだろう。牡馬で安くて3000万、そこそこ期待されているとして5000万、下手をすれば億だろう。

さて、そんなスワーヴリチャードの血統をいよいよ見てみようと思う。

完全アウトブリード
ノーザンダンサーが薄い薄い・・・極薄

スワーヴリチャードは父がハーツクライ。母がピラミマ。2014年のセレクトセールで1億6740万円で落札された牡馬だ。
母の父がUnbridled’s Song。5代前まででインブリード・クロスのかからないアウトブリード配合だ。
このころでいえば、サンデーサイレンスがいる場合にヘイルトゥリーズンやHaloのインブリードがかかりやすいのだが、母の父がUnbridled’s Song(ミスタープロスペクター系)ということで、ヘイルトゥリーズンがかかりにくかったのだろう。
それに、大大根幹種牡馬のノーザンダンサーが父の母の母の父にリフアールがいて、その父のノーザンダンサーがいるが、ノーザンダンサーがここにしか登場しない。
非常に薄いのだ。それも相まってアウトブリードが成立した馬だ。

母の産駒を見てみたが、スワーヴリチャード以外の牡馬はディープインパクトやロードカナロア、ハーツクライなど、そうそうたるトップサイアーたちをつけているし、母の母であるキャリアコネクションはこれらのトップサイアー以外にもアグネスタキオンなどをつけている。
期待の度合いは非常に高かったのであろう。しかし、その中でスワーヴリチャードだけが大成したといえるかもしれない。

血統的な視点から
なぜスワーヴリチャード産駒は走るのか?

まず一つ目は種牡馬スワーヴリチャード自身がアウトブリード配合で丈夫であるということが一つであろう。
健康で丈夫であるということは【数を使える】ことにつながり、先述の通り数を使うことができれば勝ち上がることもできる可能性が上がる。
複雑な配合になっていないから、生まれた仔は丈夫で元気なのだろう。
結果、幼駒のうちからガンガン強い調教・育成ができて、早いうちから仕上がってきて早いうちから使えるのではないだろうか。
その結果、仕上がりの差から新馬勝ち・早い段階の未勝利勝ちを可能にしているのではないだろうか。

古馬になっても活躍できる!
父・ハーツクライの賜物

スワーヴリチャードの父はハーツクライ。
ハーツクライといえばディープインパクトの1歳年上で、日本で唯一ディープインパクトに土をつけた馬である。
1歳年上なので、ディープインパクトに土をつけた有馬記念は4歳であり古馬だった。
そのことからも、ディープ産駒よりも晩成傾向がある、あったのだ。
当のスワーヴリチャードも大阪杯、ジャパンカップともに古馬になってから勝っている。
さらには、スワーヴリチャード自身も2歳のうちに勝ち上がっており、3歳はG1はダービー2着が最高だが、2月に共同通信社杯(3歳限定G3)、秋に古馬混合G2のアルゼンチン共和国杯を勝っている。
そして、4歳春に大阪杯、5歳秋にジャパンカップを勝っている。
2歳から5歳にかけて毎年勝鞍があり、古馬になってG1を勝っている。

種牡馬として、産駒に種牡馬の特性をそのまま伝えているといえるのではないだろうか。

インブリードがかかりやすい!
父と母父

もう一つ。
スワーヴリチャード自身がアウトブリード配合で健全な血統なのだが、それはいわば様々な血脈を持つ種牡馬であるともいえるわけだ。
父の系統はサンデーサイレンス系で、母の父は現在日本の主流血統の一つであるミスタープロスペクター系なのだ。
例えば母の父がエピファネイアだった場合、父はシンボリクリスエスだがシンボリクリスエスはヘイルトゥリーズン系だ。
また、母シーザリオ、その父がスペシャルウィークということでサンデーサイレンス系だ。
だから、サンデーサイレンスの3×4のインブリードとヘイルトゥリーズンのクロスがかかる。
サドラーズウェルズ、マルゼンスキーを持っているので、薄いといっていたノーザンダンサーのクロスもかかってきそうだ。

もしかしたら厳しいのかもしれないが、父がドゥラメンテという母との配合はどうなるだろうか。

サンデーサイレンス、ミスタープロスペクター、トニービンにノーザンダンサーのクロス…
インブリード・クロスがかかりすぎてやばいのかもしれないが、そうそうたる種牡馬のインブリードクロスが満載だ。
このポイントは、サンデーサイレンスとしてはハーツクライ、ミスタープロスペクターとしてはUnbridled’s Songということで、どちらも日本の主流がディープインパクト、キングカメハメハであって、これらを避けているため、母系にディープインパクトやキングカメハメハがいても近親すぎることにならないところだ。
母の父ディープインパクトや母の父キングカメハメハ、母の父ドゥラメンテという感じのものは、どれだけでもつけられるよね。となる。
キタサンブラックやイクイノックス、コントレイルなどが近すぎて付けられない母であればスワーヴリチャードに持ってきやすいのではないか。

種牡馬スワーヴリチャードの魅力の一つがこのインブリードやクロスのかかりやすさがあるのではないかと思う。

さて、今年は私は一口馬主でスワーヴリチャード産駒を何頭か出資できそうなので、スワーヴリチャード産駒の活躍が楽しみである。